「納税の猶予等の取扱要領」(通達)の活用を

解説・納税猶予(国税庁通達)の活用法  角谷啓一税理士

 払えない消費税などの納税の猶予を税務署に認めさせる事例が相次いでいます。
 しかし、税務署の対応に大きなばらつきがあるため、国税庁が定めた「納税の猶予等の取扱要領」(通達)の徹底をはかることが大切です。
 角谷啓一税理士に同取扱要領のポイント解説してもらいました。

第1回 納税猶予の基本的考え方と運動の意義
第2回 納税猶予と延滞税免除の条件
第3回 納税猶予申請の留意事項
第4回 換価の猶予のポイント
第5回 猶予期間の延長、取り消し、担保の提供など
第6回 「現在納付能力調査」と「見込納付能力調査」
第7回 正当な分納申し出を認めさせるため反論材料を活用しよう!

<参考資料>
・納税の猶予等の取扱要綱(国税庁PDF)
・「国税通則法」(法庫PDF
・「国税徴収法」(法庫PDF


第1回 納税猶予の基本的考え方と運動の意義

徴収行政側には納税猶予等の措置を承認すべき職務上の義務

■税金の分納制度は

 日本大学の北野弘久名誉教授は、本紙(2月11日号)で「憲法が要請する応能負担の原則の考え方は、徴収面にも及ぶ」と指摘し、さらに「一時に納付困難な場合は、課税庁は納税の猶予等の措置を積極的に承認すべき職務上の法的義務を負う」と言及しています。(写真は滋賀県商工団体連合会の「滞納処分対策学習会」)
 北野教授の指摘を裏付ける納税の緩和措置として「納税の猶予」(国税通則法46条2項)、「換価の猶予」(国税徴収法151条)、「滞納処分の停止」(国税徴収法153条)などの制度があります。
 消費税の免税点引き下げ、定率減税の廃止、住民税増税など大衆増税の進行と異常な原油高をはじめ諸物価が高騰している今日、納税の緩和措置の必要度が増してくることは明白です。
 そうした中で、徴収行政を行う側は、滞納に至った経緯や納税者の現況等を調査し、判断し、見極め、「徴収上の公平」も念頭に置きながら、納税者個々の実態に即応した処理を積極的に行う必要があります。
 そして、その判断の根底には、納税者の生存権や生存権的財産権を保障する憲法理念が貫かれていなければなりません。
 しかし、最近の徴収現場では国も地方も「早期一括納付」「強制徴収、差し押さえ処分」を振りかざすばかりで、徴収関係法令や「納税の猶予等の取扱要領」(後述)などにも反する事例が目立ち、全国各地から納税者の悲鳴が聞こえてきます。
 そもそも納税の緩和措置とは、国税徴収法に基づく強権力行使(差し押さえ・公売など)だけでは「徴収の実」を上げることができないので、一定の事由がある者に対しては分納を承認したり、滞納処分の執行を停止するなどの措置を講じ、強制的な徴収を緩和する制度のことです。
 言うまでもなく、現実の徴収行政では、強権力行使の対象となるのはごく一部で、大部分は納税の緩和措置の制度によって滞納問題の解決が図られてきました。これを「強権力行使優先」路線に逆戻りさせることは、決して徴収行政にとっても得策とは言えません。また次に述べる、自ら定めた「納税の猶予等の取扱要領」にも反することになります。

■「取扱要領」とは
納税の猶予等の取扱要領の積極面
 「納税の猶予等の取扱要領」の冒頭の総則では、「強制的な徴収手続き等を緩和することが妥当とされる場合がある。納税の猶予等の制度は、このような場合に納税者の実情に即応した措置を講ずることにより、納税者との信頼関係を醸成し、税務行政の適正・円滑な運営を図ることを目的とする」と、納税の猶予等の緩和措置を適用する積極的意義を述べています。
 その上で「特に納税者から即時に納付することが困難である旨の申し出等があった場合には、その実情を十分調査し、納税者に有利な方向で納税の猶予等の活用を図るよう配意する」とし、また第3章「換価の猶予」の項では「納付困難を理由として分納の申し出等があった場合には、そのまま放置することなく、換価の猶予に該当するかどうかを検討するよう配意する」としています。
 まさに北野教授が指摘した通り、徴収行政側に「納税の猶予等の措置を積極的に承認すべき職務上の法的義務を負」わせているのです。この点が最も大事な部分です。
 ところで「納税の猶予等の取扱要領」は昭和51年6月、国税庁の「通達」として制定されたものです。具体的には、「納税の猶予」「換価の猶予」に関する取り扱いと、それに付随する担保・納付委託・納付能力調査・延滞税の免除などの取り扱いについて網羅し、体系的に整備したものです。

行政を拘束する「通達」
 「通達」とは国税庁内部の職員、つまり行政側を拘束する性格のものです。それだけに、中には「徴収上の公平」を確保する見地から、納税者側にとって「厳しい」規定もあります。しかし、前述の総則部分はじめ活用すべき積極的な規定が多々あります。担当官の不勉強による無知も重なり、前述のように、「納税の猶予等の取扱要領」さえも無視する強権的な徴収行政が横行している昨今、この通達を活用する意義は大変大きいものがあります。


■運動の到達点は
 民商・全商連は滞納問題の取り組みの中で、貴重な到達点を築いてきました。最近では川口民商が連続して通則法46条2項4号「著しい損失をうけたことによる納税の猶予」の許可をかちとり、2・8全国中小業者決起大会での国税庁交渉で、(1)誠実な納税者には換価の猶予を認め、財産がなければ停止も行う(2)生存権的財産は差し押さえしない‐などの回答を得ました。
 さらに、京都・亀岡民商では火災で自宅が焼失、老母が焼死という中で申請した「納税の猶予」が「申請書に納付計画が記されていない」という理由だけで不許可になる事例が発生しました。これに対し異議を申し立ててたたかい、審査請求段階で「納税の猶予許可」の裁決をかちとることができました。
 このような到達点は、まっとうな徴収行政に近づけていく点で、積極的な意義を持つものです。例えば、通則法46条2項4号「著しい損失をうけたことによる納税の猶予」は、該当する事例には普遍性があり、該当事例が多くあると思われるのに、徴収実務における実際の適用例は極めてまれです。
 なぜかというと、「申請を出させたり、猶予該当適否の判定、後日の延滞税免除の措置などが面倒」「担当官の勉強不足」といった事情があるからです。そこを突破し、行政側の消極性と不勉強を改めさせ、到達点を切り開いてきたという点で、大いに評価できるものです。この到達点を切り開いてきたキーワードが「納税の猶予等の取扱要領」の活用だったわけです。

■学習と実践を
 最近、大阪、千葉、滋賀などで「納税の猶予等の取扱要領」の学習会が実施され、全国に学習と実践の取り組みが広がりつつあります。この際、「納税の猶予等の取扱要領」をしっかり学び、これを大いに実践し、全国で滞納問題での運動の飛躍をかちとりましょう。

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第2回 納税猶予と延滞税免除の条件

どのようなときに「納税の猶予」に該当するのか―範囲は? 延滞税免除は?

 前回は「納税の猶予等の取扱要領」(以下「取扱要領」)の概要、納税者が活用すべき積極的な規定、「取扱要領」を活用した各地の運動の到達点などを紹介しました。
 これから納税の猶予制度を2回に分けて解説します。ポイントを分かりやすく一覧表にまとめてみました。表を見ながら読み進んでください。
               




■「納税の猶予」は2種類
 納税の猶予は災害、事故、病気、業績の悪化などの事実に起因して納付困難になった場合の「通常の納税の猶予」と、税務調査で数年分の修正申告を一括提出したといった「税額の確定手続等が遅延した場合の納税の猶予」(通称「賦課遅延」)に区分されます。
 いずれの場合も「納税の猶予の申請書」を提出しなければなりません。特に「賦課遅延」の場合は、納期限内の申請が条件ですので注意が必要です。

■貸倒れも「納税の猶予」の該当要件に
 ここでちょっと注意を要するのは3段目にある「一、二号類似」です。よくあるケースとして、取引先からもらった手形が不渡りになるなどの「貸し倒れ」も「一、二号類似」に含まれるということです。

■「事業につき著しい損失」も大いに活用を
 また「四号」の「事業につき著しい損失」については、原則は「1年前と比べて利益が半減以下(又は赤字が増加)」ですが、「取扱要領」ではさまざまな弾力条項を設けて、猶予該当を増やす方向を示唆しています。大いに活用する必要があります。
 納税の猶予許可の段階で、その納税者に一定の「現在納付可能資金」(算定方法は後述)がある場合は、その金額を猶予該当金額から控除し、「納付困難な金額」だけを納税の猶予の対象としますので、この点も注意が必要です。

■延滞税の免除
 「一、二号該当」(類似も含む)の場合は、「納付困難の起因となった事実発生日から猶予期間の終期まで」は全額免除ですので、メリットは大です(ただし、免除期間は2年が限度)。
 「三、四号該当」(類似も含む)の場合は、猶予期間について2分の1免除となります。「2分の1免除」とは、本来は14・6%の2分の1(7・3%)を納付すればよいということですが、現在は措置法の特例によって、4・7%(平成20年の場合)となります。

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第3回 納税猶予申請の留意事項

納税の猶予申請にあたっての手続き・留意事項

 前回はどのような場合に納税の猶予(地方税法では「徴収の猶予」)に該当するのか、また猶予該当金額の算定はどのようにするのかについて解説しましたが、今回は納税の猶予申請にあたっての手続き、留意事項を説明します。
 手続き、留意事項のポイントを一覧表にまとめましたので見てください。

               



■提出期限に注意
 納税の猶予申請書の提出期限ですが「税額の確定手続きが遅延した場合の納税の猶予」は「納期限内」ですから注意が必要です。
 災害・盗難・病気・著しい損失などに起因する「通常の納税の猶予」の場合の申請は、提出期限はありませんので「納税の猶予を受けようとするとき」に申請書を出します。通常は災害等の猶予該当事実の発生日の直後(おおむね1〜3カ月以内)が妥当と思われます。盗難届・被害届など損失を証明する書類を添付するのがベターです。

■毎月の納付計画
 申請書に納付計画(分納金額)や猶予期間を記載する欄があります。まず納付計画ですが「毎月の納付可能な金額で、かつ精いっぱいの金額」を記載します。猶予税額に比べて毎月の分納額が少ない場合、納付計画が1年を超えてしまうことがありますが、この場合は納付計画の最終月に「しわ寄せ」します。猶予の延長制度はありますが、はじめから1年を超える猶予期間はありません。
 「毎月の納付可能な金額で、かつ精いっぱいの金額」は収支状況をもとに算定しますが、詳細は6回目に説明します。

■期間延長申請
 精いっぱい努力しても、当初の猶予期間中に完納できない場合は「納税の猶予の期間延長申請書」を出しましょう。ただし、猶予期間は通算2年を超えることができません(私は本当は5年間くらいにすべきと思っています)。

■担保の提供では
 最近「担保がなければ、猶予できない」という話をよく聞きますが「適当な担保がない場合」は提供しなくてもよい、とされています((1))。また、50万円超の猶予総額であっても、比較的少額(私見ですがおおよそ100万円未満)の場合は、徴収上支障がないと判断してもらえば、担保がなくてもよいとされています((4))。

■納税の猶予のメリット
 納税の猶予が許可された場合のメリットは、表の(1)〜(6)のとおりです。
 特に新たな滞納処分(差し押さえなど)が禁止されますので、安心して分納ができます。
 またすでに差し押さえがある場合には、納税者が解除の申請をすれば「その差し押さえが事業の継続や生活の維持に支障があると認められる場合」などには解除できるので、担当官に相談するとよいでしょう。

■納税の猶予の取り消しと弁明
 税務署がいったん認めた納税の猶予を取り消す場合もあります。ここでのポイントは、行政側が「弁明を聞かなければならない」ことです。
 例えば、分納が実行できなかったことについて「やむを得なかった事情」を弁明できれば、猶予は取り消されないと思います。

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第4回 換価の猶予のポイント

換価の猶予のすべて―その@「該当要件について」

換価の猶予を2回に分けて説明します。

■換価の猶予とは
換価の猶予とは、すでに差し押さえされている財産、あるいは今後差し押さえの対象となりうる財産の換価処分(公売)を、一定の要件に該当した場合に猶予し、分納を認めるという制度です。
これまで述べてきた納税の猶予(通46(2))は、必ずしも滞納を前提にした制度ではありませんが、換価の猶予は滞納整理のなかでの納税緩和制度です。

■「換価猶予にして」との意思表示は不可欠
換価の猶予は納税の猶予と違って、納税者の申請によるものではありません。換価の猶予を適用するかどうかは税務当局の裁量によるとされており、猶予を適用しないことに対する納税者側の異議申し立ての権利も認めていません。
しかし、換価の猶予の要件について骨格は法定化され、詳細は「取扱要領」に委ねられていますので、「換価の猶予にしてください」と行政側に意思表示することが不可欠です。

■分納申し出にはキチッと対応するよう指示
「要件事実が該当しているのに換価の猶予を適用しない」ということがあってはなりません。そうしたことがないように、「取扱要領」は「滞納者から分納の申し出等があった場合には、放置することなく、換価の猶予に該当するかどうか検討するよう配意する」(3章1節8)と、現場にくぎを刺しています。

■換価の猶予のポイント
換価の猶予は、納税の猶予のように災害とか貸し倒れとか、特定の猶予該当事実の発生が問題にされるのではなく、表のとおり「納税の誠意」があるのかどうか、所有財産が「事業や生活の継続・維持」にとってどうなのか、猶予することによって「徴収上の有利性」があるのかどうか、といったことが重要なポイントになります。
また、滞納を抑止するという観点から「猶予期間中に発生が見込まれる国税についても納期内に完納できる」ことが「納税の誠意」の中身(表(1))として重要な要素となります。

■望まれる弾力的運用
換価の猶予を申し出たら、担当官から「累積した滞納分を、1年以内に完納できる納付計画を立てないと猶予は認めない」「猶予期間中の新規滞納発生も認めない」と言われたという話を聞きます。
一定の資金力や財産がある場合は、比較的容易に換価の猶予に該当させることができますが、資金力も乏しい、財産もないといった場合は、換価の猶予の適用は厳しいものがあります。この点で「取扱要領」では、若干の配慮がされています。
例えば「納税の誠意」の中身として「原則として既滞納税金を猶予期間中(最長2年間)に完納でき、また、猶予期間中に発生が見込まれる税金についても(その都度)納期内に完納できる」(表(1))とされています。これをクリアするのは大変なので「取扱要領」は「所有する総資産や最近における収入等の概況などにより判定してもよい」と、かなり弾力的な運用を認めています。
資金力も乏しい、財産もないといった場合、もう一点クリアしなければならないのは表(2)下段(1)の要件です。「徴収上有利」として扱う条件として、「猶予期間中(最長2年間)に新たな滞納を発生させることもなく、猶予対象となった既滞納税金全額の徴収が認められること」という難題を納税者に課しています。「取扱要領」を紋切り型に読むと、換価の猶予のハードルは極めて高くなってしまいます。
これでは「納税者に有利な運用」を示唆した「取扱要領」総則や「納税者の実情に即した滞納整理」という財務大臣答弁、行政側の事務指針などと矛盾することになります。
そこで「猶予通達」をよく読むと「全額の徴収が認められること」と、最終判断は担当者の裁量に委ねています。そうしたことから徴収実務では「猶予の終期(最長2年後)には借り入れなどによる完納も見込めるのだから」という裁量(配慮)によって、広く換価の猶予が認められてきました。中小業者の経営と生活が窮地に立たされている今日こそ、このような徴収行政の弾力的運用が望まれます。
ただ、猶予期間中にも次つぎ新たな税金の納期限が到来しますので、新規滞納を防止するための努力と工夫が必要です。
          

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第5回 猶予期間の延長、取り消し、担保の提供など

換価の猶予のすべて―そのA「留意事項」

  今回は、換価の猶予のさまざまな留意事項についてです。
  留意事項を分かりやすく一覧表にまとめました。猶予期間、担保の問題など多くの項目は納税の猶予と同じですが、あえて換価の猶予バージョンに手直ししました。

■猶予期間と分納金額
  猶予期間と期間の延長制度も納税の猶予と同じです。最初は1年以内の猶予期間で、やむを得ない事情で延長が認められる場合は最長2年です。申請書はありませんので、延長の必要性が生じたとき担当官に申し入れてください。
  1年以内に完納が見込めない場合、納付予定の最終月に完納するものとして納付計画を申し出てください。
  換価の猶予にかかる分納金額の算定は「見込納付能力調査」等により担当官が行うことになりますが、納税者側から積極的に「分納計画」とその裏付けとしての「収支状況表」などを提出することをお勧めします。
  担保の提供問題も納税の猶予と同じです。提供しなくても差し支えないとされる「但し書」が4項目あります。これに当てはまるかどうか、よく表を見てください。

■換価の猶予のメリットなど
  換価の猶予のメリットは、納税の猶予よりやや劣りますが、延滞税の2分の1を免除できるとか、一定の条件のもとで差し押さえの解除もできますので、表を参照してください。
  換価の猶予の取り消しについては、分納計画の不履行、猶予期間中の新規滞納発生などの場合に行われることがありますが、納税の猶予のように「弁明制度」はありません。しかし、取り消す前に「実情を調査」することを担当官に義務付けています。
  分納計画に沿って手形・小切手を提供すること(納付委託)がありますが、この場合のメリットも2点記述していますので参照してください。
  最後に、納税の猶予との関係ですが、仮に両方該当したとしても換価の猶予と納税の猶予をダブルで適用することはできません。こうした場合、通常は有利な点が多い納税の猶予を適用することになるでしょう。

■税務署へ行く前に
  あなたがもし滞納していて換価の猶予を求める場合は、税務署などへ行く前にまず、(1)毎月の納付計画(分納金額)を作成する(2)その納付計画の根拠となる資料(収支状況表など)をつくる(3)滞納額が多額の場合などは、担保も検討しておく(何もなければ担保はなくても構いません)(4)猶予(分納)期間中に発生が見込まれる税金を、納期内に完納できるかどうかの検討をしておく‐といった準備が必要でしょう。
  そのために、前回を含めた「換価の猶予のすべて」をぜひ参考にしながら、換価の猶予を適用させる取り組みにチャレンジしてください。
          

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第6回 「現在納付能力調査」と「見込納付能力調査」

現在納付能力調査、見込納付能力調査とは?

 今回は、現在納付能力調査と見込納付能力調査について触れます。

■現在納付能力調査とは何か
 納税の猶予を規定した国税通則法46条2項は「(略)の事実に該当する場合は、一時に納付することができないと認められる金額を限度として(略)納税を猶予する」としています。換価の猶予をする場合も、基本的に納税の猶予と同じです。
  これを分かりやすく説明すると、納税の猶予でも換価の猶予でも、その税額がすべて猶予要件に該当するとしても、その納税者に「今、直ちに納付できる余裕資金」があれば、まずその金額を納付し、それを差し引いた残りの部分、つまり「納付困難な金額」の部分だけを「猶予する金額」とする‐ということです。
  「徴収上の公平」という観点から、この考え方は妥当だと思います。
  この「直ちに納付できる余裕資金」を現在納付可能資金といい、それを具体的に税務署などが調査・算定することを「現在納付能力調査」(表1)といいます。

■見込納付能力調査とは何か
  現在納付可能資金を差し引いて「猶予する金額」が決まったとします。今度は「猶予する金額」をどのように納付するのか、納付計画(分納計画)を立てなければなりません。ここでも上記と同様、「徴収上の公平」という観点から、毎月の分納金額は「自分勝手な金額」ではなく、「納付可能な金額で、かつ、精いっぱいの金額」ということになるわけです。
  これを「見込納付可能資金」といい、具体的に税務署等で調査・算定することを「見込納付能力調査」(表2)といいます。

■役所任せにしないで自らも算定を
  現在納付能力調査、見込納付能力調査は、猶予を申請し、または申し入れた納税者が直接行うものではありません。しかし、税務署などによるこれらの調査結果は、あなたの「猶予される金額」「毎月の分納金額」「猶予期間」を大きく左右します。
  この調査結果は、一方的に納税者に押し付けるものではなく、納税者を説得する(または協議する)重要な材料になるものです。したがって、納税者側としても以上のような予備知識を踏まえた上で、自らも試算した方がよいでしょう。特に、見込納付能力調査は、自ら立てた納付計画(分納計画)の「裏づけ」となり、担当官と折衝するときの重要な資料になります。また資金計画にも役立ちます。略式(表2参照)でも構いませんから、作成することをお勧めします。
  なお、短期間(おおむね3カ月程度)の納付予定の場合は、見込納付能力調査を省略しても差し支えないとされています(取扱要領7章3節(1))。
  現在納付能力調査、見込納付能力調査の算定方法などは、それぞれの表を見てください。
  担当官は、猶予金額の大小・猶予期間の長短などによって、調査表を使い分けしています。
          

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 「納税の猶予等の取扱要領」が納税者側にとって活用すべき積極面が多くあることを中心に、納税の猶予、換価の猶予の該当要件や具体的な手続きなどについて6回に分けて解説してきました。
  しかし実務では、担当官とのやり取りの中で、こちらの主張が正しくても分納要求が認められないことがよくあります。この連載を終えるにあたり、このような場合の反論材料を提供します。大いに活用し、担当官などを説得しましよう。

■正当な分納申し出が認められない場合の反論材料

(1)佐々木憲昭議員の国会での追及による政府・当局の回答

  05年1月に熱海署で起きた自殺事件に関連した国会質問で、政府当局は次のように回答しています(本紙05年3月28日号に掲載)。
  谷垣財務大臣「国税が滞納になった場合には、滞納者個々の実情に即しながら、適切な処理を図っていく。滞納者から分割の申し入れがあった場合も十分相談し、滞納者の実情に即した対応をとる」、徳井国税庁徴収部長「(納税者に親切な態度で接し不便をかけないように努め、納税者の苦情や不満は積極的に解決する、などを記載した)税務運営方針は、税務行政を遂行する上での原則論。今後とも税務運営方針の趣旨に即して税務行政をすすめていく」。

(2)当局の事務方針

  国税当局は、毎年の事務指針の中で、徴収職員に対して「誠意が認められない場合には強制処分を、納付困難な事情があると認められる場合には、納税の緩和措置として分納を認める、というように個々の事案に即応した厳正・的確な滞納整理を行う」ことを指示しています。
  したがって、いきなり差し押さえ、捜索とか、資金繰りの事情も聞かないで「3カ月以内に完納しろ」「短期完納以外は分納を認めない」とか、まして分納中の差し押さえなどは論外で、当局の方針にも反します。

(3)「納税の猶予等の取扱要領」(通達)の積極面

  「納税の猶予等の取扱要領」の総則では「強制的な徴収手続き等を緩和することが妥当とされる場合がある。納税の猶予等の制度は、このような場合に納税者の実情に即応した措置を講ずることにより、納税者との信頼関係を醸成し、税務行政の適正・円滑な運営を図ることを目的とする」と、納税の猶予などの緩和措置を適用する積極的意義を述べています。
  その上で「特に納税者から即時に納付することが困難である旨の申し出等があった場合には、その実情を十分調査し、納税者に有利な方向で納税の猶予等の活用を図るよう配意する」としています。また、第3章「換価の猶予」の項では「納付困難を理由として分納の申し出等があった場合には、そのまま放置することなく、換価の猶予に該当するかどうかを検討するよう配意する」と述べています。
  この点について、北野弘久日大名誉教授は「徴収行政側に納税の猶予等の措置を積極的に承認すべき職務上の法的義務を負わせている」と主張していますが、「取扱要領」はそのことを裏付けています。

(4)地方税は「取扱要領」に拘束されないのか

  地方税の滞納処分は「国税徴収の例による」とされています。「取扱要領」は国税庁の通達だから、しかも、納税の猶予という、主として国税通則法に関係する通達だから、地方税職員は「取扱要領」に拘束されない、という議論があります。
  地方税法の総則には、滞納問題に関係する通則的な規定が設けられていますが、国税徴収法と国税通則法双方にまたがっており、その内容も国税の規定と基本的に同じです。「取扱要領」も通則法と徴収法の双方にまたがった通達で、「徴収法の部分だけが地方税職員を拘束する」と考えるのはナンセンスです。
  したがって「納税の猶予等の取扱要領」も、地方税滞納整理に「重大な影響を与える」文書と考えてよいのです。

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